『横須賀土産 横須賀造船所散歩』(横須賀明細一覧図、以下一覧図)の説明によりますと、横須賀造船所は造船や艦船の修理だけではなく、「錬鉄所」と呼ばれた工場では、「製図所」で作成された図面や鋳型を使って、鉄を鍛錬して成型していました。現在ヴェルニー記念館に展示されている3トンスチームハンマー、0.5トンスチームハンマーは、この工場で使用され威力を発揮していました。小栗上野介がワシントンの造船所で見た光景そのものであったと思います。
また、「鋳造所」と呼ばれる工場もあり、「模型所」において製作した木製の鋳型に溶かした鉄や銅を流し込んで機械部品を製造していました。更に、「旋盤鑪鑿所」と呼ばれる工場は横須賀造船所の中で最も大きな工場でした。ここでは「錬鉄所」や「鋳造所」などで製造された部品を完成させる工場でした。工場内には2台の運搬機械が整備されていて、重量のある鉄製の部品を軽々と運搬していました。
工場の中でも特に異色なのは「製綱所」でした。「一覧図」の解説によりますと、「艦船が使用する大小の綱を製作していました。長い綱を製作するため、製綱所の建物は長大なもので、長さ270メートルもありました」と記されています。工場の位置は「一覧図」によりますと、現在の在日米海軍基地の入口あたりから、「総合福祉会館」マンション群を経てショッパーズプラザ辺りまでを占めていました。ペリー来航からしばらくの間は、軍艦も木造船が中心で、動力は蒸気機関と風力による帆走でしたので、どうしても強力な綱が必要とされました。
横須賀開国史研究会発行の『横須賀案内記』によりますと、「建物1,175坪で瓦葺漆喰塗煉瓦造り、内部は白壁になっていました」と記されています。しかし、軍艦製造も木造から鉄製へと転換することとなり、この工場も不要となり他に転換されることとなりました。このように時代の要請は大きな転換期を迎え、工場も時代の要請に叶うものへと革新されました。
(元横須賀市助役 井上吉隆)