難病による闘病生活の中、珠玉の作品を作り続けた横須賀出身の俳人折笠美秋(おりかさ・びしゅう1934-1990)の作品を紹介します。
帰る雁泪しおるや振りむかず 折笠美秋
美秋の俳句には、家族のこと、あるいは自身の闘病生活のことを詠んだ句も多数ありますが、一方で、伝統的な有季俳句、すなわち季語を読み込んだ句もあります。掲句もその1つ。雁は渡り鳥で、秋に北から渡来し、春に帰っていきます。古典和歌でも春の歌として「帰る雁」を詠み、俳句でも春の季語です。句意は、故郷に帰っていく雁は、別れの涙を流しているのか、涙を見せないように、振り向かないで飛び去っていく、ということでしょう。
(洗足学園中学高等学校教諭 中島正二)