難病による闘病生活の中、珠玉の作品を作り続けた横須賀出身の俳人折笠美秋(おりかさ・びしゅう1934-1990)の作品を紹介します。
彼処此処に君が汨羅や桜闇 折笠美秋
美秋の俳句には、文学作品の世界を響かせる句もあります。例えば、中島敦『山月記』と往還する「空谷や詩いまだ成らず虎とも化さず」などがあります。揚句に出てくる〈君〉は実在するのかわかりませんが、〈作者〉の友人で、何か悲憤を抱いているようです。そこから、汨羅江に身を投げた古代中国の憂国の詩人屈原(くつげん)が連想されています。「桜闇」は通常の歳時記にはない語ですが、「夜桜」等と比べて〈君〉の心の「闇」がよく伝わります。
(洗足学園中学高等学校教諭 中島正二)