難病による闘病生活の中珠玉の作品を作り続けた横須賀出身の俳人折笠美秋(おりかさ・びしゅう1934-1990)の作品を紹介します。
山月嗚呼妻子まず思うべきや詩思うべきや 折笠美秋
句集『君なら蝶に』のなかで、「わが山月記」という題でまとめられた8句のひとつです。「山月記」は中島敦(1909~1942)の短編小説で、唐の時代、詩人として名を残そうとして挫折し虎に化した李徴(りちょう)の話です。虎になった李徴の科白(せりふ)「飢え凍えようとする妻子のことよりも、己(おのれ)の乏しい詩業の方を気にかけているような男だから、こんな獣に身を堕(おと)すのだ。」を句にしたものですが、美秋自身の心とも交錯しているようです。
(洗足学園中学高等学校教諭 中島正二)