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よこすか文学館

「猿島六人殺し」鳴神響一

よこすか文学館<82>

横須賀が登場する文芸作品(マンガも含む)や横須賀に縁のある文学者を紹介します。

『猿島六人殺し 多田文治郎推理帖』鳴神響一(幻冬舎文庫)

江戸時代中期の猿島を舞台とした時代推理小説です。多田文治郎とは実在の人物沢田東江(さわだとうこう)(1732-96)。古代中国の王羲之(おうぎし)(307―365)の書法に基づく「東江流」で知られる書家であり、洒落本『異素六帖(いそろくじょう)』の作者でもある多才な人物です。その若き日の東江である浪人中の文治郎が、学友の浦賀奉行与力の宮本甚五左衛門に頼まれ、猿島の「茶寮」で6人が殺害されるという酸鼻な事件の謎を解き明かします。「茶寮」の門は内側から閂(かんぬき)がかかっており、かつ船がないと渡れない島自体が一つの密室になっていて、島にいた全員が死んでいるという設定は、ミステリー史上のある名作を思わせます。

(洗足学園中学高等学校教諭 中島正二)