> 新よこすか風土記 > よこすか文学館 > よこすか文学館<107>

Story新よこすか風土記

よこすか文学館

泉鏡花の文学碑

よこすか文学館<107>

三浦半島に点在する文学碑や史的記念碑を実見し、作者やその作品の成立事情、碑の現状などについてご紹介します。

<「泉鏡花」文学碑(秋谷海岸)>小説

草 迷 宮
大崩壊(おおくずれ)の巌(いわお)の膚(はだ)は、
春は紫に、夏は緑、
秋紅(くれない)に、冬は黄に、
藤を編み、蔦(つた)を絡(まと)い、
鼓子花(ひるがお)も咲き、
竜胆(りんどう)も咲き、
尾花(おばな)が靡(なび)けば月も射(さ)す。
泉鏡花

泉鏡花(1873-1939)は明治、大正、昭和にかけて活動した小説家です。唯美的、主情的な作品世界を描きました。鏡花は明治38年(1905)夏から4年ほど逗子で療養生活を送りましたが、その間に執筆された作品の一つが『草迷宮』で明治41年(1908)に出版されました。諸国を旅する小次郎法師が、秋谷海岸の茶店の婆さんから、地元の長者鶴谷家で亡くなった人のためお経をあげるように頼まれ、鶴谷家別宅に赴きます。そこには若い書生・葉越明が逗留していて、彼は九州の小倉出身で、幼児のときに亡くなった母が歌ってくれた手毬歌が聞きたくて、歌を求める放浪の旅を続けており、ここにたどり着きました。その家で怪奇な魔人や美しい妖女らに見守られながら、夢の中で手毬唄とめぐりあいます。夢と現実を往還する不思議な小説です。

(洗足学園中学高等学校教諭 中島正二)